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2008年09月03日

美しい姿勢の保持について

三菱化学株式会社黒崎事業所附属病院
  院長  山口 司

大学に勤務していた頃側彎症を担当したこともあり、姿勢の加齢的変化に
ついて
興味がある。人間美しく老いるには、腰椎軽度前弯、胸椎軽度後弯、
頚椎軽度前弯という生理的な脊椎を保つことが必要である。これを保つには
どのようにしたら良いかを考えてきた。
2つの要素が考えられる。脊椎(骨)とそれを取り巻く筋肉である。脊柱を保つ
ための第一は骨量の保持、多くは骨粗鬆症の予防である。骨粗鬆症は女性
に多い疾患であるが、男性でも高齢になれば起こり得る。女性は閉経がある
ため男性より骨量低下の時期が早いだけである。一般には、女性で65歳、
男性でも75歳以上は用心するべきである。臨床的にみると80歳以上になれ
ば男性でも、椎体や大腿骨頸部の骨折は珍しくなくなる。
しかし骨量が多ければそれで良いかというとそうはいかない。骨が強すぎると
椎間板や靱帯など軟部組織の負担が多くなり、骨棘形成や靱帯肥厚おこり、
硬膜管の圧排が起こる。いわゆる変形性脊椎症による脊柱管狭窄症や頚椎
症性脊髄症・神経根症である。少ない骨量と多い骨量間のバランスをいかに
上手にとるかがポイントである。骨量は遺伝、栄養、運動量が影響するため、
50才位で自分の骨の量を知り、今後の対策を考える。骨量が少ない(若年者
の70%以下)ならビスフォスフォネートや活性型ビタミンDの内服、運動、カル
シウムの多く含んだ食事を摂るようにする。骨量が多すぎるなら将来起こりうる
脊髄、神経根の圧排に備え、硬膜管の圧排の具合を全脊椎のMRI検査で観察
するのが賢明である。現時点では骨塩量の少ないことに関しては多くの薬剤が
あるが、多いことに関しては治療法がないため、多過ぎる人は経過をみるしかない。神経への圧排が憎悪し、排尿困難、歩行困難、手指の巧緻運動障害の症状
が出て日常生活が困難になったら手術が勧められる。
第二は筋力の問題である。骨量のコントロールだけでは美しい脊柱は維持でき
ない。体幹筋の筋力が低下すると脊柱という骨格を支え切れなくなり、生理的な
脊柱を保持するのは困難となる。筋力低下の軽いものはいわゆる猫背、なで肩
である。筋力増強保持の手段としては、ウォーキング、水泳、腰椎体操などの運動、コルセット、牽引などが考えられる。
禅宗で悟りの手段として用いられる坐禅は、インド人の達麿が中国で興した。
日本では鎌倉時代に道元が伝え、只管打坐(しかんたざ)とただひたすら坐禅
することを主張した。坐禅の方法としては、坐布団に尻をのせ、足を組み、坐蒲団は足の交差より後方にあるようにし、両膝はしっかり床につくようにする。両膝と尻との3点に重みをかけて上体があることになる。これで体の土台を造って、腰を
たてて、尻を思い切り後方へ出すようにし、背筋をのばし、頸筋もぐんと伸ばして、顎を引き、後頭部で天を突き上げるようにする。この坐禅の姿勢が生理的な脊椎
を保つのに最も合理的であると思っている。禅僧は長生きの人(呼吸法もあると
思われる)が多いが、死ぬまで背筋もしっかりしている人が多い。正座して背筋
を伸ばすことも気持ちが良いが、この場合は腰痛の前弯が強くなり過ぎることが
ある。足を結跏趺坐、もしくは半結跏趺坐に組み、臀部を坐蒲団の上に据えるこ
とが安定した脊柱を楽に保持する上で重要と思われる。体幹筋の筋力増強維持
のためには動的な運動、静的な運動が必要と思われるが、静的なものとしては
坐禅が有効と考えている。姿勢はその人の生き様、生活習慣そのものである。
外来で時折長寿の方を診察させて頂くことがあるが、90歳で正常の脊椎を保持
している人はほとんどいない。高齢になっても背筋の伸びた美しい姿勢を保つた
めには脊椎と筋力のことを考えた上で体重コントロール、食事に注意し、脊椎お
よび体幹筋を鍛錬する日々の生活が大切と思われる。